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東京地方裁判所 昭和40年(むのイ)623号 判決 1965年10月15日

被告人 吹原弘宣

決  定

(被告人氏名略)

右の者に対する詐欺被告事件につき昭和四〇年一〇月六日東京地方裁判所裁判官のなした保釈許可決定に対し、同日検察官は適法なる準抗告の申立をなしたのでつぎのとおり決定する。

主文

原裁判を取消す。

弁護人松目明正、同中野博義のなした昭和四〇年七月一日付、同年一〇月五日付の各保釈請求を却下する。

理由

一  被告人吹原弘宣に関する勾留関係書類によれば

1  同被告人は昭和四〇年四月二六日東京地方裁判所において別紙一記載の詐欺の事実につき勾留され、同年五月一四日同事実につき起訴され、更に同年七月一二日同裁判所に別紙二記載の各詐欺の事実について起訴され、同事実についても勾留されたものであり、その間

2  右被告人の弁護人松目明正、同中野博義は同年七月一日及び一〇月五日に同裁判所に対し、いずれも同被告人について捜査は終了し、かつ同被告人には逃亡、罪証隠滅の虞れがないとの趣旨で保釈請求をなし

3  同裁判所裁判官諸富吉嗣は同年一〇月六日同被告人の保釈を許可する旨の決定をなし

4  検察官は同日右決定が不当であるとして当裁判所に対し適法な準抗告の申立をなし

たことが明らかである。

二  検察官の準抗告申立の理由は別紙三のとおりであつてこれを検討するに

(一)  被告人吹原の犯行の常習性について

検察官の準抗告申立書に添付された被告人吹原の犯歴捜査報告書写によれば同被告人は昭和一三年の窃盗事件以来今日迄詐欺、横領等につき二〇回にわたり検挙、取調をうけ、その間八回にわたり起訴されたが、そのうち六回が詐欺事犯であり、同詐欺事件の中で併合審理され有罪の裁判を受けた犯行件数は数十件の多きに上り就中、特に昭和二六年以降はしばしば融資或は手形割引名下に金員、手形等を詐取するという本件勾留事実となつている各詐欺事犯とその罪質、形態、内容等においてその軌を一にする犯行が繰り返されて来たものであることが認められる。従つて被告人の本件各勾留事実となつている詐欺罪はいずれも被告人が常習として行つたものと認められる。

(二)  被告人吹原の罪証隠滅の虞れについて

当裁判所が職権により取り寄せた被告人吹原外六名に対する詐欺等事件捜査記録によれば

1  被告人吹原は昭和四〇年四月二六日東京地方裁判所において勾留の裁判を受け身柄を拘束されて以来、前記各勾留事実となつている詐欺事件の外、相被告人東郷隆次郎、同木村元と共謀による大和銀行京橋支店に関する三〇〇億円余の特別背任事件(同年五月三一日起訴)、相被告人森脇将光と共謀による元内閣官房長官黒金泰美名義の私文書偽造、同行使事件及び三菱銀行における恐喝未遂事件(同年七月一九日起訴)、同相被告人と共謀による株式会社間組外一名からの合計一六億五〇〇〇万円に及ぶ手形等詐取事件、同相被告人外一名と共謀による株式会社三愛外一名からの合計六億円に及ぶ手形詐取事件、被告人吹原の単独の平和相互銀行からの二億円の小切手詐取事件(以上三件は同年八月一四日起訴)などの各事実について取調べを受けたこと、しかして被告人吹原は取調官に対してほぼ右各犯罪事実を承認する旨の供述をなし続け、右供述も大体において他の客観的諸証拠にも合致し措信しうるものであることが認められる。

2  しかしながら他方右各事件において同被告人と共謀関係にある相被告人森脇はその間取調に際し、被告人吹原との共謀関係を全面的に否認しているのは勿論個々の犯罪事実自体に対しても否認的態度をもつて極めてあいまいな供述を繰り返していることが認められる。

3  加えて、本件各犯罪の背景について見るに本件各犯行は決して各々が別々に無関係に行なわれたものでなく、昭和三七年頃被告人吹原が金融業を営む相被告人森脇から金員を借用するようになつたのをきつかけとして急速に両者の間が緊密となり、以後数年にわたつて被告人吹原が同相被告人から借財を繰り返すうちその額も数十億円の大きに及んでその返済に窮し、同三九年に至り遂に被告人吹原は相被告人森脇からの示唆ないし指示を受けるままに自己の借財の返済のために本件各犯行を反覆するに至つたものであることが認められる。しかしてその間被告人吹原は多くは相被告人森脇の手足として犯行を繰り返していたものの、相被告人森脇は被告人吹原をして右各犯行を行なわせる際にはいずれもあらかじめ極めて綿密な計画を立て、又事前に種々証ひようなどを偽造してととのえ、又万一犯行が発覚するに至つても事が被告人吹原の単独犯行のように見せかけるよう作為し、その責任が自己に及ぶのを極力回避するよう策を廻らしていたことも認めうるところである。

4  そうすれば右各事実からは相被告人森脇は今後も自己の刑事責任を回避すべくあらゆる策を弄して本件各事件の罪証隠滅を計るであろうことは容易く認めうるところであり、就中、本件各犯行の立証において極めて重要な地位を占めるであろう被告人吹原に働らきかけるであろうことも推認するのに難くはない。

加えて他方被告人吹原は現段階においては自己の犯行等を素直に認め自供しているといえども、未だ公判審理も開始されない現在同被告人を今直ちに保釈する場合は同被告人には前記犯歴が示す如く、まじめに正業を営む能力に欠けており、又相被告人森脇との間においても未だ数十億に及ぶ借財が未整理のまま残存しているのであつて、今後もその返済等のため同相被告人及びその輩下、関係人らと接触を持ち続けなければならない状況にあることを考えれば、今日までとかく利に従つて生き行動して来た被告人吹原にとつては相被告人森脇が行うであろう証拠隠滅工作に容易く巻込まれこれに関与するに至るであろうことも認めるに難くはない。

従つて被告人吹原については依然として本件各勾留事実についても罪証隠滅をすると疑うに足りる相当の理由があるといわなければならない。

三  以上のとおり、被告人吹原についてはその犯行の常習性及び罪証隠滅の虞れが認められるので、右は刑事訴訟法第八九条第三号第四号に該当する。なお本件について裁量保釈の点を検討してみるも右のような被告人の罪証隠滅の虞れを防止するには同被告人に対する本件各勾留を継続しなければならないと認められるので、裁量保釈の余地はない。

従つて、検察官の準抗告申立は理由があり同被告人に対して保釈を許可した前記原裁判は結局相当でないので刑事訴訟法第四三二条第四二六条第二項によりこれを取消すこととし、前記弁護人らの各保釈請求は却下することとする。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木重光 福島重雄 武藤冬士己)

(別紙一、二、三)準抗告の申立書(略)

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